東京都で〈処方箋なしで病院の薬が買える〉オオギ薬局を運営している、薬剤師の扇柳(オオギヤナギ)です。2015年に、三鷹市で東京初の〈処方箋なしで病院の薬が買える薬局〉としてオオギ薬局を開業しました。2024年現在、神田本店をはじめ、恵比寿店や新宿店など、東京都内で7店舗グループ展開しています。
このブログを読んでいる方の中には、「いつかは独立したい」と漠然と考えつつも、開業に向けた準備に悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。私自身、薬剤師の独立開業に関する相談を受けることが多く、独自の形態で薬局を運営している経験からも、感じるところがあります。そういった思いを、このブログ記事にまとめてみました。独立を検討している薬剤師の皆さんに、少しでも参考になれば幸いです。
薬剤師の独立開業5パターン
薬剤師が独立開業する場合、多くの方は以下の5パターンのいずれかになります。
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病院やクリニックの新規開業に伴う薬局の開業
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院内処方から院外処方への切り替えに伴う薬局の開業
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事業承継(M&A)
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勤務先の独立支援制度を活用して独立開業
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フランチャイズに加盟して独立開業
順番に見ていきましょう。
病院やクリニックの新規開業に伴う薬局の開業
新規開業の病院やクリニックの近隣を狙って開業するというパターンです。処方箋の応需先として安定した集客が見込めることが魅力です。一方で、親族や友人、勤務先など身近に開業予定の医師が都合よく居ればいいのですが、身近にツテがないと厳しいというのが正直といったところです。
開業予定の医師はに対しては、さまざまな業種の専門業者が開業予定の医師を探して常に目を光らせています。調剤薬局系はもちろん、税理士事務所系、医薬品卸系、医療機器系、不動産系などの企業に開業コンサル部隊があり、開業予定の医師をトータルコーディネートすることで利益を得ています。開業予定の医師にどこかの企業がコンサルに入っている場合、門前で薬局を開業するには、コンサル企業とのパイプが必須となるでしょう。
あなたがもし身近に開業医希望の医師がいれば、自分も薬局開業したい旨を伝えておいたり、薬局や病院勤務であれば医薬品卸のMSさんにも独立希望の旨を伝えておくのがいいです。
自分の話でいうと、20歳代後半で一般的なチェーン薬剤師のときに、門前医師に「いつかは自分で薬局を開業したい」と言っていたところ、知り合いの医師を紹介してくれたりもしました。
ただそのときはそのエリアに骨を埋める覚悟がなかったり、いわゆる新規ー新規の開業の場合、通常より軌道に乗るのに時間がかかることもあるので、資金面での不安などもあり、ひらたくいえばびびってしまい破談しました。
いまでも、あのとき踏み込んで開局していたらどうなっただろう、と考えることがあります。
院内処方から院外処方への切り替えに伴う薬局の開業
院内処方から院外処方への切り替えのタイミングを狙って近隣に薬局を開業するというパターンです。処方箋の応需先として安定した集客が見込めることが魅力です。
院内処方をしている病院やクリニックとのツテをどうつくるか、という話になります。
院内処方を行なっている大病院には大手調剤薬局グループが熱心に営業をかけています。昔ながらのクリニックならイチ薬剤師でも入り込める余地があるかもしれませんが、ツテもなく狙ってピンポイントでというのはなかなか難しいかもしれません。
聞いた話だと、院内処方のクリニックさんのところを数百件自分で営業かけて(途方もない話ですね・・)、そこで勇気を買われたこととタイミングもあり開局できた、というエピソードも聞いたことがあります。
それくらいの気概が必要ですね。
事業承継(M&A)
すでに営業している薬局を承継するパターンです。
私は知り合いの薬局経営者100人程度はいるかもしれませんが、最近はほとんどこのパターンです(特に一番最初の店舗は)
すごいざっくり言うと技術料100-200万程度の薬局を、1000万-3000万程度で承継する、という形です。
それ以上の技術料になるとなかなか1店舗目の独立として融資などのハードルもあがり難しくなるかもしれませんが、例えば後述する勤務先であったり自己資金が豊富(1000万以上~)であれば可能性もあるかもしれません。
M&A仲介会社は多数あり、玉石混合かと思います。例えば薬局のいわゆるのれん代は0円なのに仲介手数料1000万、とかもあったりします。笑
ただ、登録しておくと案件紹介してくれるなかで、相場観がみにつくので独立希望の方は登録自体は必ずやっておくといいと思います。
勤務先から承継
勤めている薬局を勤務先から事業承継して、自分の薬局として経営していくというケースもあります。患者さんやスタッフ、その他関係者とすでに関係性が構築できているかと思うので、勤務先と金額面や条件面などの折り合いさえ付けば比較的良い選択肢ではないでしょうか。
よくあるのは、「ここで〇年管理薬剤師として勤め上げたらXX円でこの店舗売るよ」という話があるのですが、よほど信頼できる経営者で、その年数も限定的(せいぜい3年くらいでしょうか・・)でないとなかなか難しいと思います。
また、口約束でなく書面で約束が必ず必要です。(これで痛い目に合う話をよく聞きます。)
自分も実はこの約束をして1年後に話をしたら「今の売上ならX千万(現実的でない数字)」と提示されて、いろいろ揉めたことがあります。
勤務先の独立支援制度を活用して独立開業
勤務先に独立支援制度がある場合、その制度を活用して独立開業するのも良いでしょう。物件探しや開業に向けた各種手続き、資金面などサポートを受けることができます。今の勤務先に独立支援制度がないなら、まず独立支援制度がある会社に転職してみるというのもひとつの選択肢かもしれません。
フランチャイズに加盟して独立開業
フランチャイズで独立開業というパターンもあります。例えば街にあるコンビニなんかも多くはフランチャイズですが、セブンイレブン等の本部のブランドを借りて、商品やサービスなどの経営資源を本部から調達して、自己資金で経営を行い本部にロイヤリティを支払うというモデルです。
経営経験が不足していても、フランチャイズなら本部がある程度サポートしてくれます。ただ自分の店を持つという感覚が他のパターンに比べて薄いのと、当然本部の方針に従う必要があったりロイヤリティが発生したりするので、その辺りが許容できるなら現実的で悪くない選択肢といったところでしょうか。
薬局の経営を軌道に乗せるために重要なこと
ありふれた言葉ですが、薬局の開業はスタートに過ぎません。薬局の経営を軌道に乗せるために、いくつかの重要なポイントを理解する必要があります。
薬局の収益構造を理解する
「薬局というビジネスはどのように収益を生み出しているのか」を深く理解することが何より重要です。薬局の収益は主に処方箋による調剤報酬が主なところですが、OTC物販などいわゆる保険外も収益源となります。
長くなるので詳細は書きませんがここまでの文章でも「技術料」という言葉を出しました。
たとえば処方箋1枚を対応したときに、薬局の利益はいくらなのか、ぱっとわからないようでは正直独立は厳しいです。
勤めている薬局によってはそのあたり教えてくれないかもしれません。ただ、厳しいようですがそれくらい自分で調べて考えられないようであれば厳しいです。ネットにいくらでも情報あるので。
調剤報酬改定の動向把握
雇われのときは「対応がめんどくさい」と思いがちな調剤報酬改定も、経営側になると薬局の利益に直結する死活問題となります。改定に関する最新情報をキャッチアップして、周囲の動向も掴み、常に最善を尽くしましょう。
例えばいわゆる在宅対応など、今後点数のわりあてが増えるかもしれませんし、報酬改定はある意味「国の今後の方針」ともなるので、都度目を通す必要があります。
医薬品卸との関係性や価格交渉
医薬品の仕入れ価格は利益に直結するので、適正価格で仕入れられるよう努めましょう。医薬品卸は地域ごとに何社かあるので、仕入れを一社に依存せず、複数社と取引して競い合わせることが重要です。
ただこれも注意が必要で、がめつく常に最安値を追い求めるのもいかがなものかと個人的には思います。医薬品卸も営利企業なので当然1円でも高く売りたい訳ですし、無理な値下げ要求ばかりしていると当然医薬品卸との関係性が悪化します。昨今の医薬品供給不足もありますし、医薬品卸との関係性が悪化して仕入れができないとなると、薬局としては大問題です。
医薬品卸の担当さんは情報源としても大変貴重な存在です。価格交渉も大切ですが、それ以上に医薬品卸と良好な関係を築くことの方が大切かなと思います。
最近は共同購入と呼ばれるようなシステム利用も多かったと思います。割り切ってそれをやるのもいいですし、昨今の医薬品供給が不安定な状況ですと、多少割高でもいいから卸さんの利益も優先する、という知り合いの経営者もいます。
スタッフの採用と定着
薬局の売上や利益がきちんと上がりはじめて経営が安定してきた次に出てくる悩みが、人です。募集を出してもなかなか応募が来ないですし、紹介会社に頼るとびっくりしてしまうような紹介手数料がかかります。薬剤師1人を紹介会社経由で採用すると、年収の20-30%程度が相場(つまり100万などかかることも)です。スタッフが長く働きたいと思えるような職場環境を作ることが、遠回りなようで近道です。
また、自社HPの整備やSNS活用も重要になってくるかと思います。
余談ですが当グループは薬剤師の応募はX(twitter)経由がほとんどです。
X運用に関しては思うところがありまとめたのでもし採用、求人で困っていてSNS運用している薬局さんはぜひnote買ってください
オオギ薬局は零売薬局という業態です
ここまで調剤薬局という前提で話を進めてきましたが、当店は〈処方箋なしで病院の薬が買える〉という、いわゆる零売薬局を営んでいます。非常にやり甲斐のある仕事ですが、いわゆる普通の保険調剤薬局とは収益構造や集客の考え方が全く異なるという点はご理解いただければと思います。いろいろと偉そうに書いて申し訳ないです。笑
薬局開業までの流れ
薬局を開業するには、いくつかのステップがあります。開業までの流れを見ていきましょう。
事業計画を策定する
開業にあたり、事業計画を立てることが不可欠です。夢物語でなく現実として、事業計画をどれだけリアルに描けるかが薬局経営の成否を左右すると言っても良いでしょう。
開業予定物件の周辺医療機関や競合薬局の状況はもちろん、在宅やOTC販売などの調剤以外の事業予測、創業の動機、取引先、必要資金と調達方法、売上や利益の予測など、幅広い視野で事業計画を立てたいものです。事業計画書にはさまざまな書式がありますが、何を用いるか迷うようなら日本政策金融公庫の創業計画書を用いると良いでしょう。
もちろん創業パターンによって内容は大きく変わってきますが、数パターン書いてみると夢が具体的な輪郭をもちはじめると思います。
開業場所を考える
事業計画策定と並行して、開業物件を探しましょう。といっても、いわゆる面薬局をオープンする、でも無い限りなかなか100%自分の都合で物件を選ぶことはできません。
ただ、おおよその開業エリアの相場観をつけておくのは大事です。例えば私も、山手線〇〇駅の徒歩数分、商店街ならX万/坪くらいかな、とかおよその目星がつくようになっています。
門前薬局なのか面薬局なのか、開業場所によって周辺医療機関や集客方法も大きく異なり、開業場所は非常に重要です。片っ端から知り合いに当たってみたり、ネットやSNSを駆使したり、あらゆる手段で情報収集を継続して行いましょう。
必要な許認可を取得する
開業場所が確保できたら、薬局の開設に必要な許認可を取得する必要があります。保健調剤薬局の運営に不可欠な許認可は以下の2つです。
- 薬局開設許可申請(保健所)
- 保険薬局指定申請(厚生局)
開業予定日からスケジュールを逆算して、申請書提出前の事前相談など含めて、早めに準備を始めることが大切です。
開業資金を準備する
物件取得費、内装工事費、設備費、医薬品仕入れ費など、薬局の開業にはまとまった開業資金が必要です。全額自己資金で賄う必要はありませんが、融資を受ける際にも一定の自己資金を用意しておくことが求められます。
私は独立を本格的に意識した3年目薬剤師のころ、遠いツテを辿って薬局経営者に話しを聞きに言った際に「まずなんでもいいから1000万貯めてこい。本気だってまわりみんなわかるから」と言われて電撃が走りました。
いまでも一定の説得力があったと思います。1000万あると、融資自体もある程度まで幅が出ます。
ただ振り返るとそれを貯めるのに4-5年自分はかけてしまっていました。思い返すとあと1-2年でも、資金が少なくてもいいから早く始められたらよかったな、と思います。
もちろんお金だけでなく独立までにある程度自分がやろうとしている薬局に向けて知識を積むことも重要ですが、、それはあとからでも概ねついてくると思います。
(開局したら、必要なことは必死に勉強するようになります。)
薬局の開業に必要な資金と資金調達の方法
ひと言で言ってしまえば「開業資金の金額や資金調達の方法は人それぞれ」というツマラナイ結論になってしまうので、あくまで私見という前提で書いていければと思います。
薬局の開業に必要な資金
ネットで調べると薬局の開業費用の相場は2000万円くらいと出てきますし、それくらいかけている知り合いも多いです。
開業してすぐに売上が上がる保証もないので、資金にゆとりがある場合でも、以下のように工夫して初期費用をなるべく抑え、運転資金を確保しておくことが重要です。
- 設備や内装にこだわり過ぎない
- 医薬品の初期在庫は必要最小限
いざ薬局を始めると「もっとこうすれば良かったな」と思うことは多々あります。最初から多額の資金を投じて理想の薬局を目指すのではなく、最初は極力スモールに初めて経営が安定してきたら規模を拡大したり理想を追求して細部にこだわっていく方が現実的ではないでしょうか。
私は自己資金が1000万弱あり、ミニマム開業だったので実は創業融資などをナシで独立しました。ただ、あの頃融資を受けて積極的に事業投資(ヒトなど含めて)できていれば今頃もっと、、、と本当に後悔していることのひとつです
事業計画をしっかり練り、借りた額以上に稼ぐぞと腹を括ってスタートするのもいいと思います(自己責任でお願いします)
資金繰りは税理士に相談
「餅は餅屋」と言われるように、その道のことはやはり専門家に聞くのが一番です。まずは事業計画書などで資金計画を立ててみて、開業前の段階で事業計画書を元に資金繰りについて税理士に相談してみることを強くお勧めします。
自分は、2015年に創業した際は、いわゆる個人事業主で、会計ソフトをつかって確定申告を2年ほど自力でやりました。
ただ、これも先行投資しておけばよかったと後悔していることのひとつで、早い段階で専門の税理士さんと契約、相談してもっと大きく展開できるように相談すればよかったとも思っています。
個人事業ではじめるか、法人ではじめるかなどもあるのですが、、、そこは長くなるので割愛します。そのあたりふくめて創業時から税理士さんと契約、相談しておくのがいいと思います。
薬局経営におすすめの税理士
オオギ薬局では、新橋税理士法人の神田先生に、薬局経営のパートナーとして税務の相談に乗っていただいています。新橋税理士法人は調剤薬局の顧問先が多く薬局業界への知見も豊富なので、これから薬局開業を目指す薬剤師の方にもおすすめの会計事務所です。いいところを3つほど紹介していこうと思います。
レスポンス早く相談しやすい
普段、新橋税理法人さんとはChatWorkというチャットアプリを中心に連絡をとっています。
チャットで気軽に相談できますし、いままで「返信まだかな」と感じたことがないくらい、いつもレスポンスがはやいです。
会計知識弱くても丁寧に教えてくれる
税務関連は最近だとインボイス制度であったり、定額減税など、新しい制度や規制などの改定がありますが、都度丁寧に解説してくださるので非常に安心感があります。その際も難しい言葉を使わず、目線をあわせて教えてくれるので非常に安心感があります。
他の経営者と話をすると「税理士はこちらから質問しないと答えてくれない」というようなことを聞くのですが、そのような不満もなく、「この制度をつかったらどうか」と提案してくれたりするのでコンサルティング的なポジションまで担ってくれています。
神田先生が勉強熱心で常にアップデートされている
代表の神田先生のXなどを拝見すると、私より薬局の経営関連の本を読んでいたり笑、新しめのITツールなどを常に勉強、まずは試しに使ってみる、というところがうかがえます。
薬局も、税務も法律や制度が常に新しく変わっていく業界の中で、非常に頼もしい存在です。
まとめ
私自身、独立して零売薬局という非常にやりがいのある仕事ができているので、これから独立を目指す薬剤師の方を心から応援しています。この記事がお役に立てば幸いです。